前回投稿した〈叱る依存〉がとまらない(第1章)では、著書「〈叱る依存〉がとまらない」を参考
にし、“叱る”の定義を確認することで、叱る行為の対象である相手に「ネガティブな感情」を生じさ
せることが特徴であることを紹介していきました。またそれは、本来相手に求めていた変化や成長の
効果が得られないことにも触れていきました。
本章以降においても同著書を参考にし、“叱る”行為による、叱る側・叱られる側それぞれの脳内で生
じていることを整理し、“叱る行為の効果”について掘り下げていきたいと思います。
1.“叱る”は相手の「防御システム」を発動させる
まず変化を促したい相手、すなわち叱られる側の脳内では、叱られることでどのような現象が生じて
いるのかについて紹介したいと思います。
結論から述べると、その現象は
“「防御システム」による危機回避”
であるとのことです。
その仕組みの説明として、以下の例が挙げられています。
例えば、野生の動物に襲われそうになり命の危険が差し迫った状況があるとします。その状況に対処
するためには、瞬間的に「戦うか、逃げるか」を選択する必要がありますが、その判断を下すのが脳
の偏桃体という部位だそうです。
動物の狂暴な姿や唸り声によって自身に物理的な危害が加わる可能性を察知すると、その恐怖から偏
桃体が作動し、脈拍の上昇や発汗、瞳孔の拡大等の身体の反応を起こし、逃走準備や臨戦態勢を整え
るといった具合に。
人間の身体は、この防御システムを活用して生き延びる確率を最大にするよう上手くできているよう
です。
上記のようなシチュエーションは、日常生活で遭遇することはなかなかないですが、我々の身近にあ
る危機回避が必要な場面とはどのようなものか続けて見ていきたいと思います。
先ほどの例の猛獣を「信号無視の車」に置き換えてみると、イメージがつきやすいかと思います。自
身に物理的な危害が加わる可能性を察知すると、その恐怖から偏桃体が作動し、脈拍の上昇や発汗、
筋活動の増加等の身体の反応を起こし、回避行動を取るといった具合に。
上記までの例は、自身で危険を察知できた時の反応となりますが、次は自身では危険の察知ができて
いないパターンを考えてみましょう。
信号無視の車が迫っているにも関わらず、スマホを見ながら横断歩道を渡っている人(スマ男)がい
るとします。自分では、危険な状況に気づいていません。そこで、それを見ていた第三者(叱る子)
が、「前見なさい!、後ろにさがりなさい!」等の言葉を強く発し、介入したとしましょう。スマ男
は、叱る子の強い言葉で不安や恐れ等のネガティブな感情が発生し、それが偏桃体活性のトリガーと
なり、回避する行動を発動させることができました。
これが“叱る行為”の真骨頂ともいえる効果、「危機介入」です。
相手のよくない言動をとがめて強い態度で責めることで、相手の防御システムを強制的に発動させ危
機回避の行動変容を瞬時に促すことができたというわけです。
2.学びをもたらすのは「冒険システム」
著書では、学びをもたらす脳の部位として、前頭前野を挙げています。前頭前野は、知的な活動に重
要だと考えられていますが、学びによって新たな行動を獲得していくメカニズムを「冒険システム」
と呼んでいます。
人はなんらかの報酬が得られたり、報酬が得られることが予想されると、ドーパミンニューロンとい
う神経系が活性化し、それを得るための行動をとるようです。要するに、「欲しい」「やりたい」と
感じた時の行動を支えているのがドーパミンニューロンであるようです。この神経系は前頭前野にも
含まれていることから、知的な活動を通して報酬を獲得しようとするのが、この冒険システムの特徴
と言えそうです。
ちなみに、ここで言う報酬は、生理的欲求を満たすためのものだけでなく、お金を得る(学習的報
酬)だったり、誰かからの称賛を得る(社会的報酬)も含まれるとのことです。
3.「防御システム」は学びを支えるシステムではない
ここまで脳内のメカニズムについて触れてきましたが、本章の最後になぜ“叱る行為”に学びの効果が
ないのかをまとめていきたいと思います。
これはとてもシンプルなのですが、
偏桃体が活性化するようなストレス状況では前頭前野の活動が大きく低下する
からです。
「防御システム」は、前述のとおり、瞬時に危機回避するためのシステムであることから、思考が行
動を遅らせないように知的な活動を制御していると言えるようです。
「防御システム」と「冒険システム」は同居することはない。つまり、“叱る行為”は学びや成長を支
えるメカニズムとは真逆のシステムを発動させているということになります。
ここまで、叱られる側の脳内で起こっている現象と叱る効果について紹介してきました。現象の背景
を紐解くことでその本質が分かってくると個人的にはとても面白いなと感じますが、皆さんはいかが
でしたでしょうか。
次章では、学びや成長の効果がない“叱る行為”を、なぜ繰り返してしまうのかについて、叱る側の脳
内メカニズムに着目して見ていきたいと思います。ご意見やコメントがあれば是非お願いします!
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